旧茨城県物産陳列館
前回の記事で茨城会館のことを書いたが、会館ができる前にあった茨城県物産陳列館についても名前だけ触れた。
そこで今回はその物産陳列館を紹介しようと思う。

茨城県物産陳列館が竣工したのは1915年(大正4)のことだ。写真は竣工して間もない頃の物産陳列館の写真である。
明治30年代、各府県で地元の産業振興のために物産陳列館や商品陳列所という施設が建てられるようになっていた。県だけでなく中には郡や市、商工会議所が独自に設立したものもあった。
これらの施設は、地元や他府県の商品の調査や紹介・販売をしたり業者の相談に乗ったりして、産業の発達を促そうとしたものである。
茨城県は当時そういった施設がなかったので、1910年(明治43)の県議会で物産陳列館の設立の意見書が提出され、1912年(大正元)に設立が議決された。
場所は水戸市三の丸、県議会議事堂の北側に5千坪(約16500平方メートル)の土地を確保した。
設計は当時早稲田大学教授だった佐藤功一(1878-1941)が、施工は青木組が担当し、総レンガ木骨二階建ての建物を建造した。着工は1913年(大正2)10月、竣工は1915年1月であった。

1階は中央に第一陳列室、その奥に第二陳列室と参考品室を設け、正面側は玄関の左右に事務室や応接室、保管室などの部屋を作った。
2階は中央を大広間とし、ここを公会堂として利用した。そのため市民はこの建物を公会堂と呼ぶことも多かったようだ。二階にはほかに食堂や貴賓室、館長室、休憩室などもあった。

2階に公会堂を設けたのは、物産陳列館を作ってもこれについて講和等をしなければ陳列館の効用をなさないであろう、と当時の他府県の状況を踏まえた考えからだった。全国的に見て明治末期以後の陳列所は、一階を陳列、二階を公会堂や集会場という構成にするものが増えたという。
建物の竣工後1915年(大正4)4月に陳列館に建物が引き渡され、業務の準備をして7月7日に開館した。建築費に約53,000円、備品費に約20,000円、諸費用に約10,000円を費やしたという。県の建物ではあるが建築にあたっては水戸市も4,000円の寄付を出している。
最初の写真は白黒で分からないが、屋根は赤瓦だったそうだ。壁は木骨レンガ作り、土間・床下はコンクリートを打った、と工事報告で述べている。
最初の2年間は開館後の珍しさもあるし、実業大会や物産共進会といったイベントもあったため、年間入場者数は1915年(大正4)が157,054人、1916年は120,142人だった。
その後は年間7〜8万人くらいの入場者があったようだ。
2階の公会堂は収容人数600人ほどで、各種集会の他、演奏会や美術作品の展覧会など催し物にも使われた。
1921年(大正10)には「茨城県商品陳列所」と名称を変えて運営を続けてきたのだが…。
1929年(昭和4)5月7日の夜、出火により焼失してしまった。
5月15日に発行された雑誌「芸術」第14号の冒頭は次のような書き出しだった。
「5月7日深更水戸市の茨城縣公會堂が火災にかゝり、折柄同階上廣場に於て茨城新聞社主催の茨城美術展覧會開會中で、多数の出品悉く烏有に歸した、といふ事が翌朝の市内各新聞紙上で逸早く傳へられた、茨城縣出身の画伯に横山大観、木村武山、飛田周山、小川芋銭、五島耕畝、永田春水の諸氏を初め、東都画壇に名を知られた人多く、されば名は一地方の展覧會のごときも實は我國美術会の年中行事に於ても、可なり評判の高い展覧會であった。(…中略…)今回も立派な作品が盛んに陳列されたと聞いて居たが、この火災の事を知ると同時に、或出品に就いての苦心や、知れる受賞者の喜びや、それ等の人々の画も、煙の末に葬られた事であらう 全く万感胸に迫るの思ひがした」
その続きに横山大観の作品は持ち出されて無事だったことが書かれているが、多くの作品は焼失してしまったようだ。当時の図録によると60点の作品が展示されていた。
上の文章は美術雑誌なので作品のことだけを書いている。火災の原因や被害等について具体的に書かれたものが他にあるか探したのだが、見つけられなかった。
同年7月の県議会では県知事説明の中で「5月7日夜県商品陳列所および公会堂が出火全焼したのでその対策を研究中であり、後日協賛を得たいということなどを明らかにした」とあるだけだ。
この年の11月には茨城県で陸軍特別大演習が実施されたが、その記録には「御料車馬置き場は茨城縣商品陳列所跡」と記されている。この時はもう更地になっていたようだ。
公会堂(商品陳列所)が焼失した後、1931年の県議会で次の公会堂となる建物を再建することが認められた。そして1935年に完成したのが前回の記事の茨城会館である。
【参考】
「茨城県物産陳列館年報 第1」(茨城県物産陳列館編/茨城県物産陳列館/1917)
「茨城県商品陳列所報」(茨城県商品陳列所編/茨城県商品陳列所/1924)
「芸術」第14号(大日本藝術協會/1929年5月)
「茨城県議会史 第4巻」(茨城県議会史編さん委員会編/茨城県議会/1966)
「近代日本<陳列所>研究」(三宅拓也著/思文閣出版/2015)






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