LLブックの世界
「LLマンガへの招待」(吉村和真・藤沢和子・都留泰作著、樹村房、2018年)を読みました。
「LLマンガ」という言葉を知らなかったのですが、「LLブック」のマンガ版の取り組みを紹介した本です。
実は「LLブック」という言葉も今回初めて知ったのですが,読書に困難を感じる人たちが読みやすいように構成された書籍のことだそうです。
「LLマンガへの招待」の説明などを元に書きます。
LL とは、スウェーデン語の Lättläst (やさしく読みやすい)の省略です。知的障害や自閉症,読み書き障害などの障害者、高齢者、移住などにより母語が異なる人たち…こういう、一般の書籍を読むことが難しい人たちに読書の楽しみや必要な情報を与えられるよう,生活年齢の興味や関心に合う内容が,分かりやすく書かれた本、ということです。スウェーデンで1968年に出版が始まりました。
「LLブック」で検索をすると,いろいろな記事や情報が出てきます。
以下の新聞記事は有料限定記事で一部しか読めないのでリンクは張りませんが,
例えば2016年8月19日の毎日新聞地方版
LLブック 日本でも図書館などで普及へ 障害者も楽しめるように 『ひろげる会』/奈良
「写真や絵などを多用し、障害を持つ人も楽しめるよう構成された「LLブック」。北欧で盛んに出版されているこの本を日本でも普及させようと、NPO法人コミュニケーション研究センター(橿原市)と県内3公共図書館の指定管理会社が「LLブックをひろげる会」を作った。」(記事冒頭のみ引用)
2018年5月25日朝日新聞
長崎)「やさしく読める」LLブック、どんな本?
「『LL(エルエル)ブック』を知っていますか――。長崎市立図書館(同市興善町)では、読むことが苦手な人でも読書を楽しめるよう、さまざまな図書を用意している。図書館の職員に、どんな本があるか紹介してもらった。」(記事冒頭を引用)
などの記事が見つかりました。
日本では,
2014年1月「障害者の権利に関する条約」の批准
2016年4月「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」の施行
などを経て,最近は各地の公立図書館でも導入している例が徐々に増えてきているようです。
冒頭の本の話に戻りますが,「LLマンガへの招待」は、このLLブックのマンガ版ということです。マンガ版を作ってみて、著者たちが困難を感じた点は,
「そもそもマンガが読みにくいとは思われていない」ということでした。
でも、マンガにも「文法」があって、それを知っていないと誤読してしまう部分はけっこうあるようです。
誤読を招く例
・落ち込んだ時に顔に縦線が入るなどの,記号表現。
・キャラクターの変形(7頭身キャラが2頭身になるなど)
・複雑なコマ割り
・ナレーションの使用
…など。
これらは漫画を読む経験をしていればいつのまにか身に付いているので、誰でも分かるものだと思い込みやすいですが,マンガ文化に全ての人が接しているわけではありません。マンガを読む機会があまりなかった人や、日本以外で育った人にとっては,マンガは読みにくいものとなる場合があります。
そういえば昔,「少女漫画が読めない」という男性は多かったように思いますが,少女漫画の文法が分からなかったということなのでしょう。
本書には、これらの「マンガ的文法」がどこまで許容されるのか,どれだけ誤解を招くのか,実際に障害者にも読んでもらい、評価してもらって、ガイドラインを決めて行く過程が書かれています。
LLブックが良いと思ったのは,「子供向けの本を与えるわけでは」ないというところ。読むのに困難である理由は様々だろうけど、それなりの年数を生きてきたその人自身の経験から、思うところはいろいろあるはず。その要望に応えようというところが気に入りました。
例えば認知症になっても,その時その時で読める本というのは作れるんじゃないかと思うんですよ。多分一人一人違うから、共通して「これ」って提示はできないかもしれないけど。
障害や病気・あるいは異なる文化背景をもつことにより読書に対する困難を抱えている人たちが,読むことができる本が増えるといいなと思ったのでした。
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