小諸市立郷土博物館
小山敬三記念館の手前にこんな建物が建っている。
カーテンが閉まっており、営業している様子はない。

近くの案内板には「郷土博物館」と記されているが、そこに「閉館中」という札が貼り付けられていた。

現地には他に何も表示がなく、この建物について知ることができない。

石を積んだ壁面に定礎と彫られたプレートが嵌め込まれており、「着工 昭和42年11月 竣工 昭和43年3月」と記されているので、建物が1968年に完成したことは分かる。

ネットで小諸市立郷土博物館を検索すると、過去の小諸市の公式サイトに「2009年(平成21)4月1日から休館」と記されていたことがアーカイブに残っていた。当時は完全閉館ではなく、団体での見学は連絡をすれば受け付けていたようだ。
しかし現在は小諸市の公式サイトで博物館についての記載を見つけることができない。
一時期(2013年~)は古文書の調査室がこの建物に置かれていたようだが、それも現在は別の場所(臨時図書館だった建物)に移っている。
もはや、この建物は全く利用されていないのではなかろうか。
この建物の由来を調べようと思って資料をあたった。
そうしたら、最初は「火山博物館」として開館した建物だったことが分かった。
「全国でもめずらしい博物館が、浅間山を展望できる懐古園近くにできた。去る(昭和)29年の市制施行以来の懸案で、浅間山の火山活動が、山すそに住む人々の営みにどのように影響をおよぼしてきたかを豊富な民俗資料で紹介、火山活動そのものについても模型や写真によっておおくの人に知ってもらおうというのが館設立のねらい。」
(「信濃路の博物館」1968 より)
「全国にいくつかある火山博物館のなかでも実物主義をつらぬき、豊富な資料・文献を観覧に供していることで知られる。ジオラマや電動パノラマもふんだんに使い、高度な学問を、小・中学生にも理解しやすく配慮している。とくに、岩石園は造園に三年の歳月を費やし、他の追随を許さない内容と規模をもっている。」
「館外に出ると待ちうけているのが岩石園だ。一つには、浅間山の山系が、どのような溶岩でできているか、採集された石をすべて、地形通りに並べている点が特筆できる。(中略)もう一つは、分類系統に準じた火成岩、変成岩、たい積岩の標本展示だ。」
(「父と子の博物館」1976より)
私は美術館の前に石が並んでいるのを何も考えずにただ眺めていたが、実は火山博物館の展示だったのだ。やっと分かった。

岩石園の立て札は現在も立っている。

浅間山は今も活動を続けているが、戦後の活動を少し見てみよう。
1947年(昭和22)の噴火では、登山者9名が亡くなっている。
1950年は9月に大爆発。
1953~55年はほぼ毎月数回の噴火、降灰が関東南部に広がることもあった。
1958年は10~12月に活発に活動。11月に大爆発し、火砕流が発生。
1959年も毎月1~十数回噴火し、4月には噴石で多数の山火事が発生した。
1961年は8月に大爆発し、火砕流発生。8~11月に噴火が続き、噴石降灰が広範囲に及ぶ。行方不明者1名。
こういった状況下での博物館設置だったのだ。
1964年12月、小諸市役所で火山博物館設立の準備委員会が発足した。
民間人200人以上が、火山関係だけでなく歴史民俗資料も含めて提供に協力し、なかには1000点以上の資料を提供した人もあったそうだ。
建物は1968年3月に竣工し、8月12日に博物館として開館した。
鉄筋コンクリート造2階建て、総面積661.47㎡、建築費は1988万円だった。
設計は丸山建築設計とあるが(「公共建築」1976年9月号)、どこの会社か調べられなかった。
火山博物館ということで、この壁面に石を使ったのだろう。

屋上には望遠鏡が設置されており、浅間山を始め周囲の風景を観察できるようになっていたという。
さて。
そんな火山博物館だったが、20年でその名前が消えることになった。
火山博物館を改修し、1988年4月20日に郷土博物館として開館したのだ。展示内容は、今までの浅間山の資料に加え、土器や武具甲冑、民具など小諸市の歴史を中心にした展示となった。
火山博物館が開館してから、浅間山は1973年と82年、83年に噴火した。その他の期間は地震はあったものの噴火はなかったようだ。開館前に比べると噴火、そして火山性地震の頻度が減ったことが博物館を変更した理由の一つかもしれない。
リニューアルして開館した小諸市立郷土博物館だが、これまた20年ほどで一般公開を止めた。
閉館中、希望があれば見学を受け付けるとのことだったが、ほとんど利用はなかったようだ。
2016年頃には市議会で博物館の活用について議論もあったようだが、具体的にどのような話がされたのか見つけられなかった。
しかし、2018年(平成30)3月の小諸市議会定例会に次のような議案が提出された。
「議案第28号 小諸市立郷土博物館条例を廃止する条例」
郷土博物館の再開が見込めないので条例を廃止するという議案が提出され、可決された。
これで、郷土博物館は廃止されたのだ。
今後建物をどうするかという議論は聞いていないが、いずれ解体されることになるのだろうか。
【参考】
「信濃路の博物館」(信濃毎日新聞社調査出版部編/信濃毎日新聞社/1968)
「父と子の博物館」(富士書店/1976)
「佐久風土記:小諸市・佐久市・北佐久郡・南佐久郡」(郷土出版社/1983)
「博物館研究」1989年5月号(日本博物館協会編/1989)
「浅間山有史以降の火山活動」(気象庁サイト)
「こもろ市議会だより 3月定例会」(2018.04.25)
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません