旧三笠ホテル見学
前回に続き、旧三笠ホテルのことを書く。
復原された玄関部分。もとは1926年(大正15)に設置され、1974年の移築の際に撤去されていたものを今回復原した。

ここから中に入る。
ホールの内側。左側が玄関ドア。

中央階段。

今回の補修工事では内部も模様替えされた。
本館左右の翼棟の2階は、正面から見て右側がカフェ、左側は貸室として利用するようになった。
2室ある貸室は予約制で、座談会や撮影会などの利用を見込んでいるようだ。1階のミュージアムショップで大正時代風のドレスをレンタルすることもできる。
カフェには入らなかったので中のコメントはできないが、もと客室を使っているので雰囲気は落ち着いているのだろう。厨房は廊下を挟んで北側にある。
北側の客室は旧三笠ホテルの歴史を展示している。
年表が展示されているので、それを見て初めて知ったことを書いていこうと思う。
(本記事では建物の歴史全体を書くわけではない。)

まず「『日本館』山津波で倒壊・流失」という一文が目に入った。
1910年(明治43)のことだ。
「軽井沢町誌 歴史編 近・現代」を見ると、8月9日から雨が降り始め、一ノ字山(三笠ホテルの東側にある山)が崩壊、土石流で三笠ホテルの日本館が流されたのだという。
濁流は低地へ押し寄せ旧軽井沢全域が洪水の被害を受けた。死者4名、別荘全壊18戸、破損29戸、流失19戸。旧軽井沢の浸水家屋370戸という記録が残っている。
日本館というのがどこにあったのか知らなかったのだが、展示で説明されていた。
本館の北西側に建てられた棟だ。
日本館は1906年に建てられたので、わずか4年くらいしか使われなかったのだ。

なお1910年8月の豪雨は軽井沢だけではなくて、関東地方、東北地方、山梨県静岡県に大きな被害をもたらしたものだった。
年表を見て知ったこと2つ目。
1914年(大正3)に東側の丘の上に別館を建てたこと。
(軽井沢町が出した「旧三笠ホテル保存活用計画」の文書には、別館の竣工は1921年(大正10)と書かれているのだが、誤記だろうか?)
ただ私が興味を持ったのは、別館が建てられたことよりも、後に火災で焼失したことについてだ。
終戦後、1945年の10月頃から占領軍は軽井沢のホテルや別荘などの接収を始めた。三笠ホテルも接収されて、アメリカ陸軍第一騎兵師団が使い、1947年からは将校のレストハウスとなっていた。
そうやって米軍が利用していた1951年の秋、失火により別館を焼失させてしまったというのだ。
この二つが、年表を見て印象に残ったことである。
その後の建物の歴史について簡単に記しておこう。
1952年(昭和27)に三笠ホテルの接収が解除された。山名傳兵衛が建物を借用して「三笠ハウス」という名前でホテル営業を開始した。
三笠ハウスは1970年(昭和45)に廃業した。
2年後、日本長期信用銀行が旧三笠ハウスを買収した。建物解体の動きがあったのだが、住民や建築界から保存運動が起こり、1974年に建物を北側に移動して保存修理工事を行なうことになった。
銀行は旧三笠ホテルを1980年3月に軽井沢町に寄贈し、5月に国は重要文化財に指定した。
1983年(昭和58)から一般公開が始まり、2019年まで開館していた。その後が今回の改修工事である。
これは、壁の塗り方を説明した模型。左が今回の修理で、右が1905年時点での壁の作り方。
今回の補修では、途中でファイバーネット(サイザル麻製の網)を貼り、再び生漆喰と中塗土を重ねる工程が増えている。

中央階段下には、今までの修理工事のプレートが取り付けられているが、しばらく見ない間にだいぶ傷みが進んでいた。

2019年はこんな状態だったのに。こんなに変わるものなのか。

今回の工事のプレートもここに並べるんじゃないの?と思ったら、右手の壁に大きなプレートが貼り付けられていた。今回のは大きいなっ。

プレートには保存修理工事の内容や費用、建物の歴史などが記されている。
大正14年の改修工事についても書かれていた。
「昭和11年までに正面中央の車寄せを撤去し現状の片流れの庇とした」と書かれているのを見つけた。前の記事で、中央と右側の車寄せが両方存在していた期間は短いのではないかと書いたが、長くても約10年くらいだったようだ。
最後の写真は、旧三笠ホテルの一室で展示中のポール・ジャクレーのポスター展の様子である。作品の展示ではなく、過去のジャクレーの展覧会のポスターだけの展示だ。

現在「ポール・ジャクレー展 〜自然と暮らしを見つめて〜」が軽井沢町歴史民俗資料館で開催されている。
会期は11月15日(土)までなので、ポスター展もそれに合わせて15日まで行なうそうだ。
【参考】
「長野県の国宝・重要文化財 建造物編」(長野県教育委員会, 長野県文化財保護協会 編纂/郷土出版社/1987)
「軽井沢町誌 歴史編 近・現代」(軽井沢町誌刊行委員会/1988)
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