大網発電所
大所川発電所から少し歩くと、吊り橋が見える。これが大網発電所へ行く道だ。
私がいる姫川の西側は新潟県、橋の向こうは長野県だ。
私は歩いて渡るが、この橋は車も通行可能だ。
橋の前までやって来た。重量制限3.5トンの表示がある。
鉄骨で組んだ上に板を張ってある。鉄骨部分は塗装が剥がれて錆が浮いてきている。
渡り終え、振り向いて撮影。
橋の銘板を確認するのを忘れてしまった。Google Map では「大網発電所の吊橋」と書いてあるけれど、それは正式名称じゃないよねえ?
でも自分が撮影した写真を見返しても、銘板らしきものが見当たらない。
岸から数メートル離れたところに石碑があった。「復興記念碑」と書いてある。
裏側に説明が記されているので引用しよう。
「平成七年七月十一日、未明より振り始めた梅雨前線豪雨により、緑豊かで平和な山村の様相が一夜にして一変した。姫川流域全域にわたり、山肌が崩れ、道路が寸断され、土石流が発生し多くの集落が孤立するという、かつて経験のない大災害にみまわれた。
最大時間雨量48ミリ、連続雨量409ミリの集中豪雨に、姫川支流の河川が氾濫し流下したため、全壊家屋28棟、姫川沿いを走る国道148号、JR大糸線におおおきな被害をもらたした。
長野県・新潟県・建設省・林野庁・JR西日本のそれぞれが総力あげ復興に尽力した。
この災害の記憶を風化されることなく後世に伝えるべく、『姫川災害復興記念の碑』を建立したものである。
平成十年三月吉日」
1995年の7月の豪雨災害についての復興記念碑だった。碑が建てられたのは災害発生から2年8ケ月後のことである。
次の写真は、ここではなく別の場所(国道148号線の新潟・長野県境付近)にあった姫川渓谷ジオサイトの説明版に掲載されていたものだ。
「7.11水害当日と現在の姫川(平岩付近)」とある。
右側の写真を見ると、この写真の撮影場所が分かった。ちょうど今いる吊橋を少し下流側から撮影したものだ。吊り橋と、その奥に大糸線の鉄橋が見える。鉄橋の右側に見えるやや大きい白い建物は大所川発電所だ。
上の写真から、左側の写真だけ拡大した。
吊り橋は水面ギリギリにわずかに見えるだけだ。奥の鉄橋の橋脚に水が当たり大きなしぶきを上げている。
さて。発電所に行くには、吊り橋を渡ったところで左側に進むことになる。
しかし左を向くと、道の左右に「立入禁止」の看板が立っているではないか。
これが道路左右の敷地について言っているのか、道路も含めて立入禁止なのかよく分からない。
結果、入らずに他から見ることにした。
再び吊り橋を渡り、県道375号線を少し北に進むと国道148号線に合流する。
国道は川よりも少し高くなっているので、その歩道から発電所も見えるのだ。
歩道から撮影した写真がこれ。
大網発電所の本館と、水圧鉄管、変電所が見える。
水圧鉄管の水はどこから引いているいるのか、地図をご覧戴きたい。
直線距離で約4.2km上流側の姫川から取水しているのだ。ダムを作らずに導水路で水を引き、水槽から水圧鉄管で発電所に水を流す。この方式を「流れ込み式」発電所といい、ダムに比べて低コストで建設できる。
デンカが保有する発電所は全て流れ込み式だそうだ。
大網発電所は1936年8月に着工し、1938年2月に竣工した。最大出力は24,400kW。
電気化学工業の青海工場に送電することが目的だが、完成直後は工場の方の受け入れ態勢ができておらず、1939年3月末までは日本電力会社に供給をしていた。
上の写真には写っていないが、建物の横には大きな岩山がある。この地形は怖い。
その岩山の様子。下部中央の木々の間にわずかにロックシェッドが見えているが、ここをJR大糸線が通っている。
戦前のことだが、この発電所で事故が起こったことがある。
1940年12月20日に、第1号発電機が爆音とともに原形をとどめないくらいに破壊したのだ。
発電機製造業者も交えて原因究明をしたのだが、発電機の部品が熱により亀裂が入ってしまったことが原因で、別の発電機のパーツを調べたら強度が弱いものだったらしい。
運転上の過失ではなかったということだ。
発電機製造業者が対応をし、1942年4月に運転を再開したという。
これは後で調べたので見学当日は知らなかったのだが、2018年に大網発電所内に水力発電資料館がオープンしたそうだ。企業の報告書に書いてあるのだが、一般公開しているのかどうか良く分からない。
もし一般公開しているのであれば、吊橋のところに資料館の案内表示があればいいと思うのだけれど。
大網発電所の話題から離れるが、デンカ株式会社は現在17の発電所を保有している(合弁会社保有も含む)。企業で使う電力の約4割を水力発電でまかなっているそうだ(2020年度実績)。
1921年に運転を開始した小滝川発電所は運転100年を超えたが、木造の建物は当時のままの姿だという。機会があれば見に行きたいものだ。立入禁止だろうけど。
【参考】
「電気化学工業三十五年史」(電気化学工業三十五年史編纂委員会編/電気化学工業/1952)
「デンカレポート2018 統合報告書」(デンカ株式会社/2018)
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません