ブラジルの先住民の椅子

2021-03-20


港区の東京都庭園美術館で,「ブラジルの先住民の椅子」という展覧会が開かれています(9/17まで)。これらの椅子は、ブラジルの出版社「ベイ出版」が15年以上前から集めてきたものだそうです。
庭園美術館には、本館(旧朝香宮邸)と新館がありますが,今回の展示は本館と新館両方に展示をしたものでした。
写真撮影可ということでしたので、撮影をしながら見て行きます。

まずは本館。

左側の作品は解説板に「オウギワシ 民族:メイナク 作者:ウルフ」とあります。隣は「カエル 民族:カマユーラ 作者:ヤワビ」。

ハチドリです。民族はカマユーラ、作者はヤワピとあります。

大広間に主催者のあいさつがパネルで掲示してありました。
それによると、今回の展覧会は「いま生まれつつある『芸術』を紹介」するものだそうです。
ブラジル先住民には、一木造りの椅子を使っている民族がいます。もともとは、日常生活の中でも使ってはいるのですが,酋長やシャーマン・戦士が村の儀式で使ったり,結婚式などの特別な場で使うなど、伝統や独自の神話と結びついたものでした。そのため、天界の使者を思わせるコンドルや,雨を呼ぶと信じられたジャガーなどの姿が合体されてきたのです。
ところが、現代の木彫りには儀式や神話を暗示する造形は見て取れません。それに変わって,野生動物の姿を単純化させた視覚表現となっている…とありました。

多くの部屋の展示では,このように白い丸テーブルを置き,その上に作品を展示していました。

写真は手前から,ジャガー,ハチドリ、コンドル、コンドルです。

さて、展示パネルによると,「椅子を作る先住民」というのはひとつの民族だけではありません。

パネルには「アスリニ・ド・シングー」「カラパロ」「カマユーラ」「カラジャ」…と、16の民族の名前が書いてありました。
最初の写真にあった「メイナク」と「カマユーラ」は、どちらも、ブラジル中部のマトグロッソ州にあるシングー国立公園に住む人々だそうです。
(なお、ブラジルには,234もの異なる文化,180もの異なる言語をもつ人々,600もの先住民族居住地が存在しているそうです。)


こちらは白いテーブル上ではないのでちょっと写真が分かりにくいですが,左の二つが「エイ」、右は「ジャガー」です。

続いて,新館の方に移動します。

こちらは雰囲気が変わって,白い背景にずらっと動物たちが並んでいます。本館の方の作品は「椅子」を意識して座面を平らにしたものが多かったのですが,この部屋にあるのは椅子というよりも動物の彫刻という感じです。

アリクイさん。

バクさん。写真がちょっと分かりにくいですが,このバクには睫毛が植えられているんです。見た範囲では,他には睫毛が生えているのはなかったと思うので,この作者の工夫でしょう。

一箇所は,テーブルを使った展示。テーブルの向こうに見える白い丸いものは,ソファです。座ってもいいですよ,というお話でした。

丸テーブルの上にいたこの子はバクです。カヤビという民族の作品ですが、作者は不詳とのことでした。

この部屋にいる間は,「かわいい、かわいい」という感じで眺めて写真をとっていたのですが、このあと、隣の部屋で映像を見てやっと,最初にパネルにあった「いま生まれつつある『芸術』を紹介」という意味が分かってきました。

映像は2本ありました。
ひとつめは、ある村の人たちが森の中に出かけて行き,木を切り倒して削り,椅子を作っているところ。森の中で木を切り倒し,その場で切断しておおまかに削るところまでやっていました。そうすると運びやすいのです。持ち帰ってから仕上げ、塗装。伝統的な材料を使って着色をしていきます。

もう一本は,作者たちのインタビューです。
彼らは,伝統的なものをそのまま作っているのではないのでした。最初にも触れましたが、椅子は(民族によっても異なるでしょうが)、もともとは自分たちの生活の中で使っていた道具であり、儀式の際に使われる道具,あるいは婚姻の際に贈られる贈り物であり,また共同体内部での社会的な地位を示すものでした。
しかし、欧米の現代美術を見てから,自分たちには野生動物を見て,そこから想像力を羽ばたかせる能力があると気付いたといいます。
外部からの刺激を受け,自分たちの「自然を捉える目」を基本とし、用途や伝統に縛られない多様で自由な表現を生み出していこうとしているのです。

彼らの作品を集めていたブラジルのベイ出版も,先住民の制作物を「標本資料」として収集するのではなく,ブラジル独自の現代的表現として認め,その造形美について評価・普及することを目的として活動しています。
伝統工芸品という枠ではなく,芸術作品として広めたい、そんな思いを「いま生まれつつある『芸術』」と表現したのでしょう。

なお、あとでパンフレットを見て知ったのですが,会場デザインを手がけたのは,建築家の伊東豊雄さんだそうです。