描かれた満州分村大日向(1)

9月24日に開かれた,満州移民についての講演会と映画「大日向村」上映会に行きました。(会場:佐久穂町生涯学習館「花の郷・茂来館」)

「大日向村」は現在の長野県南佐久郡佐久穂町にあった村です。(1956(昭和31)年に佐久町に編入、その後2005(平成17)年に佐久町は八千穂村と合併して現在は佐久穂町となっています。)
この村は戦前、村民の半数近くを満州に送り出し,現地に分村をつくりました。


 

今回の講演会・上映会のテーマは、その「大日向村の移民について,当時のメディアはどのように描いたのか」です。
前半は,大日向村を研究してきた筑波大学人文社会系教授の伊藤純郎氏の講演です。大日向村がどのように描かれてきたか,説明がありました。
後半は,1940(昭和15)年の映画「大日向村」の上映です。のちに東宝に吸収される「東京発声」が製作したものです。
昭和恐慌の影響で生活が困窮するのを、分村移民で人口を減らし,一人当たりの田畑を増やして村を建て直そうとする浅川武麿村長らの姿を役者が演じています。当時は国策として満州移民が推進されていたので,全国で上映されたのですが,戦後は話題となることもありませんでした。

1983年、臼田町職員だった方が、映画の撮影当時に地元の方もエキストラ出演したという話しを聞いてフィルムを探し始めました。佐久総合病院なども協力して東宝の倉庫にあった原板を見つけ,複写上映したのだそうです。
その後は上映の機会もなく,今回の地元での上映会は35年ぶりだということでした。
(参考:9月5日信濃毎日新聞)

上映会場は茂来館の中にあるメリアホールだったのですが,会場が満員で入りきれません。ホール前のロビー部分にスクリーンを設置し,そこで中継もするという形になりました。

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1938(昭和13)年7月27日付の「アサヒグラフ」に大日向村の満州移民のことが掲載されています。
「村を挙げて満州大陸へ 信州大日向村の国策分村大移住」
「…昨十二年春村会は満場一致『大日向村満州国分村移民規定十四箇条』を通過し,村を真二つに割って全戸数の半分二百戸をひとまとめに満州の新天地に移し,こゝに第二の大日向村を建設することに決定した。」(アサヒグラフ第31巻第4号)

(上記のアサヒグラフの文章は 「満州分村の神話 大日向村はこう描かれた」(伊藤純郎著 信濃毎日新聞社)に掲載されたものを引用しました。)

 
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アサヒグラフの記事が出る前の、日本と大日向村の状況をまとめてみます。

1929(昭和4)年の世界恐慌の影響で,昭和5〜6年の日本経済は危機的な状況でした。特に農村は,生糸の対米輸出が激減したことに加え,昭和5年の豊作による米価下落で打撃を受けています。翌年には逆に,秋に東北・北海道の冷害・凶作が深刻となっています。

1931年9月に満州事変が勃発し、事変不拡大を声明した若槻内閣を無視して関東軍は戦線を拡大していきます。12月に内閣は総辞職となりました。続く犬養内閣は,積極財政に転じ軍事費拡張路線をとります。1932年3月には関東軍が満州全土をほぼ占領し,満州国の建国が宣言されました。

大日向村で分村移民を推進した村長・浅川武麿が村長に就任したのは1935(昭和10)年のことです。

国の方では1936(昭和11)年にニ・二六事件が起こり,岡田内閣総辞職のあと廣田弘毅が組閣をしました。二・二六事件の直後に関東軍により満州移民送出の計画が立てられ,それをほぼそのまま採用した廣田内閣により,二十カ年百万戸送出計画とされ、満州移民が国策となったのです。

1937(昭和12)年、大日向村では,3月に分村移民を経済更生計画の中心とすることを決めました。村長の片腕として働く産業組合役員の堀川清躬(のちに開拓団長となる)が4月に満州移民団の視察に出かけ,7月には第一次先遣隊20人が出発しています。
8月には第二次先遣隊17人が出発、翌1938年1月に開拓団入植地(吉林省舒蘭県四家房)が決定しました。

1938年4月には大日向村から第一次本隊31人が出発、5月に第二次本隊として14人が出発しました。そして7月に第一次家族招致隊として120人が出発をしています。

先に書いた「アサヒグラフ」が掲載したのは,この7月の出発を取材したものでした。移民家族の一行が駅に向けて進む写真も掲載されています。

このアサヒグラフの記事の後、大日向村は小説の題材になり、さらには新劇や映画・紙芝居にもなって満州移民を宣伝する「モデル」としての役割を背負わされていきます。

(大日向村の状況については,上記の「満州分村の神話 大日向村はこう描かれた」を参照しました)

(つづく)

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