りんどう橋(1)

長野県上田市に「りんどう橋」という人道橋がある。
橋は今年の3月に登録有形文化財として登録された。

そのニュースを聞いた私は、実はりんどう橋がどこにある橋なのか全く知らなかったのだ。それなりに近代建築などに目を通してきたつもりだったのに、県内の情報も把握できていなかった。

確認したら、もともとは別の場所にあった橋を2007年に現在地に移築したものだという。

上田市ではりんどう橋の有形文化財登録を記念して3月9日に講演会を開いた。参加の申し込み不要ということだったので、私もそれを聞きに行ったのだ。会場は丸子文化会館セレスホールである。

始まる前にステージ上を撮影した。

登録有形文化財となるくらいなので、りんどう橋にはそれなりの歴史がある。
講演会での話をもとに、橋の歴史を書いていこう。

まず場所だが、地図にりんどう橋の現在の場所と、以前あった場所を丸印で示した。「千曲川橋梁」とあるのが、以前にあった場所だ。

「りんどう橋」というのは移築後の命名で、それまでは別の名前だった。どのような経緯で現在の場所に建設されることになったのだろうか。

(1)鉄橋の製造と輸入

この橋はドイツで製造されたものだそうだ。正確な年は特定できていないが、1890年から1901年の間にドイツのハーコート社で製造され、輸入されたものだという。
明治中期に輸入されたこの橋は九州鉄道で使われた。九州鉄道は事業開始に当たりドイツ人技師を招聘していたので、ドイツ製の橋梁を輸入することになったようだ。橋梁は現場で容易に組み立てができるよう、ピンやボルトで結合する設計になっていた。
その後、鉄橋は明治末期頃に解体され、部材として保管されていたらしい。あるいは別の場所に転用していた時期もあるのかもしれない。
なお、九州鉄道は1907年(明治40)に国有化された。

(2)丸子鉄道への移設

ここからは長野県の話だ。
上の地図のように、丸子鉄道は1918年(大正7)に大屋から丸子町まで鉄道を敷設した(丸子町駅は地図からほんの少しはみ出した位置だ)。丸子鉄道は製糸業者が中心になって設立した鉄道で、生糸の輸送が一番の目的だった。千曲川を橋梁で渡って、大屋駅と丸子町駅を結んだ。
また1926年(大正15)には、上田温泉電軌が図の位置に依田窪線を敷設した。

さて、丸子鉄道開通後10年、1928年(昭和3)のこと。
千曲川の水害で、橋の一部が流失してしまった。

なるべく早く対応するために、九州鉄道(当時は国鉄となっていた)が保管していた鉄橋2連を払い下げてもらい、千曲川橋梁を架け直したのだ。

補修前と補修後の千曲川橋梁を図にしてみた。古い写真を見たところ、大屋側の4連はトラス橋で、丸子側の2連はプレートガーターだった。
プレートガーター橋の部分が水害で流失したので、九州鉄道(国鉄)から譲り受けた鉄橋を設置したのだ。

1939年(昭和14)に上田温泉電軌は上田電鉄に社名を変更した。
その後1943年に丸子鉄道と合併し、上田丸子電鉄となった。
社名変更や合併に際し、依田窪線は西丸子線(1939)に、丸子電鉄線は丸子線(1943)に改称した。

(3)丸子線の廃止~大石橋へ

戦後は営業成績が伸びず、赤字続きだった西丸子線は、1963年に廃止された。
続いて、1969年に丸子線も廃止となった。(廃止後、上田丸子電鉄は上田交通と改称。)
千曲川鉄橋は道路橋として転用されることになり、「大石橋」と改称して1971年に開通した。幅が狭いので、信号による交互通行をしていた。今から30年以上前だが、私もこの道を自動車で通った記憶がある。

(4)2001年の台風

2001年9月11日、台風による増水で橋の一部が破損した。
上田市と丸子町が協議をして、大石橋は掛け替えられることになり、2004年3月に2車線の道路橋として開通した。
鉄橋の部材は撤去されたが、解体を担当した橋梁メーカー・信州大学教授・丸子町役場で話し合い、貴重なものだから保存をしようということになった。2連全ての保管は無理だったので良い状態のパーツを選んで1連の橋の部材として、橋梁メーカーが保管した。
なお、2006年に上田市・丸子町・真田町・武石村が合併して(新)上田市が発足した。

(5)りんどう橋の建設

2004年(平成16)に内村川の西側に県道が整備され、地元からは橋の要望が出ていた。
災害時のために橋は必要であるし、内村川の東側の総合体育館やグランドに行きやすいので、内村川に橋を架けることが決まった。
普段は人道橋として使うが、災害時には緊急車両や運搬車も通すことを考えて設計をした。
2007年(平成19)7月31日に完成し「りんどう橋」と名付けられた。

以上が橋が製造されてから現在地に再架橋されるまでのおおまかな流れだ。
次の記事では実際にりんどう橋を見に行こう。

最後の写真は、講演会会場の丸子文化会館である。

【参考】
「りんどう橋 国登録有形文化財登録記念講演会」(上田市・上田市教育委員会/2024年3月9日)

土木建造物

Posted by Sakyo K.