本願寺伝道院の修復(2010年~11年)

2023-04-27

前回「調査不足のためしばらく後に」と言っていた、本願寺伝道院の修復の話しです。いくつか資料をあたったので、それをもとに書いていきます。

1912年創建の伝道院は、これまでも必要に応じて屋根の葺き替えやテラコッタの補修をしてきましたが、1980年代後半から雨漏りが見られ,老朽化も目立ってきました。

ドームの部分は庇がないので、雨水が雨戸の枠を伝って浸入しやすいこと,屋根の飾りテラコッタが屋根の一部となっているので(屋根の上に取り付けられているわけではない)雨水の浸入経路になること、などが原因でした。また、冬場の水分の凍結がテラコッタの破損に繋がっていたようです。

伝道院を修復工事の調査は、1999(平成11)年に行われています。翌年修理の検討がなされましたが、その後実施されずに数年が経ちました。

この間,2006(平成15)年に、これ以上老朽化が進まないよう素屋根が設営されています。

改めて2009(平成20)年に修復調査報告書がまとめられ、2010(平成21)年に事業が始動しました。

2009年時点のストリートビューがあったのでキャプチャ画像を載せますが、このような状態になっていたようです。

施主である宗派側が活用方法を検討するとともに,建物は施工のための調査が行なわれました。方向性が定まったのが2010年の1月、工事期間は2010(平成21)年 4月1日~2011年3月31日とされました

修理方針は「本願寺伝道院保存修理工事修理報告書」に書かれているので引用します。

「基本方針
1,本建物は,京都市指定有形文化財(建造物)に指定されており,歴史的な重要性に鑑み、構造診断に基づく構造対策(耐震補強)、外部からの雨水対策及び耐久性・安全性等を考慮し、修理方針については慎重な対応を基本とすること。
2,文化的な価値の保全と有効活用との調和を図るため、復元エリア・事務所エリアの区分分けをし、復元と現状維持修理を明確にし,各所の状況を調査し,慎重に修理計画を立て実施すること。
3,修理については,詳細にわたり『伝道院修理工事監理委員会』又は,施主たる宗派に対し,施工事前相談・確認をとり修理工事を行なうこと。」

上にある復元エリア・事務所エリアですが、大ざっぱに言うと建物の西側(玄関・八角ドームがある方)が復元エリア,東側が事務所エリアとされました。復元エリアでは文化的価値保存を重視,事務所エリアでは執務利用を重視しています。

こちらは東面

では、実際の補修工事の内容を見て行きます。

今回の修復では,単なる文化財保護ではなく,耐震性や防水性などの基本性能を向上させて建物をより長く使うことを目的にしています。

耐震補強は、壁内や床下に補強材を入れました。煉瓦壁を垂直に穿孔し、長さ11mの鉄筋を挿入しました。2・3階床下には水平ブレース補強をして剛性を確保しました。
ドームの部分は補強の鉄骨フレームを壁内に設置しています。

屋根は野地板の腐食部分を取り替え,大屋根・ドームへの渡り廊下屋根は、既設の銅板を全面取り外し,葺き替えて修復しました。八角ドーム・六角ドーム、書庫天蓋屋根は腐朽部分,漏水個所を取り外して補修しています。

防水性向上のため、パラペット天端に塗膜防水層と金属笠木を新設して止水ラインを新設。軒飾りの落下防止のため、テラコッタ取付け下地の材料を強固なものに変えました。
また、テラコッタはひび割れや欠けの補修を行なった後,含浸強化材を塗りさらに撥水材を塗布しています。

外壁タイルは、浮き部分にエポキシ樹脂を注入して剥落を止め,ステンレスアンカーで煉瓦積み本体にピンで固定しました。

窓部分は、外装と調和の取れたアルミサッシを新規に取付けて風雨対策をしました。既存の鋼製雨戸(鎧窓)は保存エリアと東側1階,講堂は取り外して再取付け,八角ドーム部分は現状保存修理,それ以外は鋼製雨戸の新規取り替えをしました。

これは北面

内装については,床は「復元部分」については創建時の床に修復し、「事務所部分」はタイルカーペットに変更されています。
天井や壁面は補修して再塗装。

照明や空調については、創建時になかった設備器具が後から取り付けられていたので,高効率の設備機器に見直し,台数の削減や省エネルギーに配慮しています。

2011年に保存修理工事報告書が出されましたが,西本願寺と竹中工務店は今後30年間の中長期維持保存計画書も作成しているそうです。

本当に、建物を保存するのって大変だなあと素人の私は思うばかりです。

なお個人的には、修理報告書に掲載されている内装の写真を見て,機会があればぜひ見てみたいと思っています。そういう機会はあるのでしょうか。

【関連ページ】
霊獣たちががかわいい本願寺伝道院」(2019.08.23)

【参考】
「浄土真宗本願寺派本願寺伝道院保存修理報告書<複製本>」(2012(平成24)年3月 浄土真宗本願寺派発行)※株式会社 竹中工務店より発行された報告書の複製
「BELICA」 2013年10月号(公益社団法人ロングライフビル推進協会)

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Posted by Sakyo K.