旧波田町役場庁舎
長野県は松本市に、木造のこんな建物がある。
松本駅から西へ10km余り、上高地へ向かう国道158号線沿いの敷地、駐車場の奥に建っている。
これが旧波田町役場庁舎だ。
現在は松本市だが、2010年まではここは東筑摩郡波田町だった。
ちなみに、現在の松本市役所波田支所はこんな建物。
1991年11月に波田町役場として竣工し、2010年に松本市に編入合併して波田支所となった。
次の写真は旧役場庁舎を国道の歩道橋から撮影したもの。
建物の角に玄関があり、その上には切妻破風がある。屋根には塔が建っていて、玄関部分にはバルコニー。バルコニーは玄関と平行ではなく、建物の壁面と向きを揃えられている。
新庁舎ができてからは、旧役場庁舎は公民館として使われていたが、2017年に公民館が移転し、旧庁舎の建物はほとんど使われなくなった。
角度を変えて撮影。公民館時代は、正面玄関ではなくこの写真の中央に写っている出入り口が使われていたようだ。現在も表札が掛けられている。
2016年頃に、建物を活用しようという地元の動きもあったが、耐震性や管理の問題で実現できなかったのだという。
それでも現在も活用を望む声が出ており、市民の関心を高めようと、波田まちづくり協議会の主催で12月6日に講座が開かれることになった。
この建物に関心がある私も参加した。
「旧波田町役場庁舎の歴史的価値を知る」という講座で、NPO法人信州伝統的建造物保存技術研究会の理事長、吉澤政己さんがお話をしてくださった。
前半は長野県内の戦前の建築の実例が挙げられ、その後旧波田町役場の話となった。
旧波田町役場が建てられたのは、1925年(大正14)のこと。建てられた当時は「波田村役場」だった。「波田町誌」によると、7月1日に上棟式が行なわれ多くの村民が集まったそうだ。145俵もの投げ餅がふるまわれ、相撲や花火も催されたという。
建築費は19,015円92銭とあった。
1956年(昭和31)、波田村農協の事業拡大に際し、役場庁舎を移転して土地を農協に貸すことになった。庁舎を曳屋して移転したのだが、その際に一階部分を増築して面積を広げ、玄関上部の切妻破風やバルコニーは撤去された。
1973年(昭和48)に町政が施行され波田町役場となる。
1990年(平成2)に新庁舎の建設が始まり、旧庁舎は再び東側に移築された。移築に当たって、古写真に基づいて竣工時の姿に戻されたのだという。
ただ、古い白黒写真を見ると壁の色がかなり暗く見えるので、色は現在とは異なっていたようだ。
過去の航空写真を参考にして、移転の様子を地図にしてみた。
講演後に質疑応答があったが、地元でもどういう形にすれば活用できるか悩んでいるところのようだ。
講演後、二階を見せていただいた。
階段を上がる。壁や天井は新しくなっているが、窓と階段は古いままのようだ。
ちなみに講演会場の一階の部屋は、内装は全面的に新しくなっていた。移築の際に柱も太くしたらしい。
二階から撮影。私は階段好き。
二階の一番大きな部屋は見たところ、もとは村(町)議会の議場だった感じだが、2回目の移築をした後は、「民俗資料室」として波田町の資料を展示する部屋となっていた。一時期は小学生が社会見学で訪れていたそうだが、現在は使われていないようだ。
入口の写真だけにしておく。
二階の廊下から階段の方を見る。
最後に外から撮影。左側が暗いのは現庁舎の影。
せっかく二度も移転して保存した建物なので、活用ができるといいのだけれど。
参考
「旧波田町役場庁舎の歴史的価値を知る」(波田まちづくり協議会主催・波田公民館共催)講師:吉澤政己氏
「波田町誌 歴史現代編」(波田町誌編纂委員会編・1987年・波田町教育委員会発行)
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