スーパークローン文化財

長野県立美術館では、美術館完成記念の展覧会、「未来につなぐ~新美術館でよみがえる世界の至宝 東京藝術大学スーパークローン文化財展」を開催している。
会場は撮影可能だったので、写真も何枚か掲載する。

スーパークローン文化財とは、東京藝術大学が制作している文化財の複製である。

劣化する文化財を守るには、非公開にして保存しておくのが一番良いのだが、それでは文化財の価値も共有されず存在意義がなくなってしまう。
東京藝術大学では、なかなか公開できない文化財や、移動できない文化財の精巧な複製を作り、それを世界中で一般公開することができるようにすることで、文化の維持発展に寄与しようという考えだそうだ。
現在のデジタル技術を利用して、材質や表面の凹凸、筆のタッチまで忠実に再現しようとしているという。

さらには、失われた文化財を復元してよみがえらせることで、文化財を後世に伝え、文化の共有と世界平和に貢献しようとしている。

最初の写真は、中央が法隆寺の釈迦三尊像、後ろにあるのは法隆寺金堂壁画の再現模写である。
釈迦三尊像は創建当時の復元をしたものなので、金色に輝いている。(二階には、現状を再現した複製も展示されている。)

釈迦三尊像の復元は2014年に開始され、次のような手順で制作された。
(1) 3D計測 … プロジェクタで縞のパターンを投影してそれを撮影し、3Dデータを作成。
(2) データ解析・造形 … 計測したデータをもとにデジタルデータで3D復元。
(3) 3D造形出力 … 編集したデータを3Dプリンタで出力。
(4) 鋳造 … 原形をもとに銅合金で鋳造。三尊像の鋳造は高岡市、台座は南砺市が協力した。
(5) 表面仕上げ … 表面をキサゲ、タガネ、ヤスリで修正して仕上げる。
(6) 着色・古色仕上げ … 鍍金、硫化着色、緑青着色などで経年の古色を再現する。

二階に上がると、(3)の段階の3D出力した像も展示されている。次の写真がそうである。

この原形をもとにして、シリコンゴムで外型をつくり。そしてゴム型の中にロウを流し、像の肉厚のロウ型をつくる。ロウ型を耐火性の泥漿に何度も浸して乾燥させると、これが外型になる。
加熱してロウを溶かすと、ロウ型の空間が出来る。
そこに溶かした銅合金を流し込むと、金属がロウ型の形になって、冷えて固まる。…という作り方。ロストワックス型鋳造というらしい。
ただし、大光背は別の作り方をしたそうだ。(ガス型鋳造法というやり方。)

次の展示室には、現在の状況を再現した釈迦三尊像が展示されていた。

その奥では、鋳造場面を記録したビデオが上映されているので、会場で見ていただきたい。

次の会場からは、海外の文化財の複製が展示されている。

写真は、敦煌莫高窟第57窟の複製。現在莫高窟では観光客による劣化を恐れて一部の窟で拝観者を制限しており、この第57窟は非公開となっている。

こちらは、アフガニスタンのバーミヤン遺跡の再現。映像はアフガニスタンの風景を上映しているもので、再現したのは天井の壁画である。これは、バーミヤン東大仏の天蓋を飾っていた壁画「天翔る太陽神」だそうだ。この壁画は、2001年にバーミヤンの大仏が爆破されたときに、失われてしまった。

大仏の縮小模型も展示されていて、上の水色の矢印のところにあった壁画だ。(水色の矢印は私が書き加えた。模型に「大仏の頭上をのぞいて見てください」という表示があったが、その説明じゃ分かりにくいでしょ。)

私の撮った写真も分かりにくいけど、これが天井の壁画。

この太陽神というのは、ゾロアスター教の太陽神ミスラと言われている。そして両脇にいるのがギリシアの軍神アテナと勝利の女神ニケなのだという。様々な文化が融合した文化財だったのに、失われてしまったのだ。もったいない。

このほかにも、朝鮮民主主義人民共和国にある江西大墓、新疆ウイグル自治区のキジル石窟、タジキスタンのペンジケント遺跡、ウズベキスタンのサマルカンドの壁画が再現されているので、雰囲気を味わってください。

会期は2021年6月6日(日)までです。