国立西洋美術館の前庭

6月4日から東京上野の国立西洋美術館で、リニューアルオープン記念の展覧会「自然と人のダイアローグ」が開催されているので、訪問した。
私は、リニューアルオープンしてから初めての訪問である。

今回のリニューアルの一番の目的は、地下にある企画展示館の空調設備の交換工事と、その屋上にあたる前庭の防水工事だったそうだ。

2016年に、国立西洋美術館は「ル・コルビュジエの建築作品 ー近代建築運動への顕著な貢献ー」の名称で、7カ国・17の資産の中の一つとして世界遺産に登録された。
その時に、前庭の形が建築当初から変更されていたことが「前庭の普遍的価値が減じられている」という指摘があったそうだ。
今回の防水工事をするには前庭の彫刻や植栽を一度撤去する必要があったので、可能な限り本館竣工時の姿に戻すことに決めたのだという。

例えば前庭にロダンの彫刻「カレーの市民」があるが、現在はこの写真のようになっている。

過去に自分が撮影した写真には全体が分かりやすいものがないのだが、2012年にはこんな状態だった。彫刻の周囲だけでなく、右側と後ろにも植栽が見える。

航空写真で比較してみる。

これは2019年に撮影されたもの。カレーの市民の彫刻は矢印のところにある。

次の写真は、1984年の航空写真だ。この時はまだ植栽はない。

1994年から97年にかけて前庭の地下に企画展示館が建設され、1996年から98年に本館の耐震化工事が行われた。前庭が変更されたのは、それらの工事が終わった後の1999年のことだという。
なお、赤い星のマークが付いているのは新館だが、これは1979年に建設された。

さらにもう少し古い航空写真も掲載する。
1975年には新館がなく、本館の北側には1964年に建てられた事務棟(赤い星印)があった。

1959年の本館完成時に近い航空写真も探したところ、1963年の写真があったので、それも載せておく。まだ本館の西にも北にも建物はない状態だ。

南西側に植栽があることによって、美術館の敷地と、周囲の通路や公園の園地とが区切られたようになって閉鎖的な印象を与えることになった。
建築時の開放性が弱まってしまったというのはこのことを指すようだ。

閉鎖的な印象というのを別の写真からも見てみよう。
これは2012年に撮影した写真だが、美術館前の通路からは美術館の敷地の様子が全く見えない状態だった。

現在は、美術館の敷地から見ても公園を歩く人たちの姿が見えるようになった。

写真を見ると地面に線(目地)が入っているのが見える。この目地も、1999年の工事のときにコンクリートパネルの別の目地と重なってしまい、本来の姿が分かりにくくなったものを、今回、元の目地に戻している。
この目地は、コルビュジエが考えた基準寸法「モデュロール」に基づいているので、彼の設計思想を表す大切な要素の一つだということだ。

美術館の南側には1961年に竣工した東京文化会館があるが、その窓枠の線は、この前庭の目地に合わせた線が使われている。東京文化会館を設計したのは、前川國男である。

西洋美術館の建築に際しては、コルビュジエの設計図に基づき、彼の弟子であった日本の3人の建築家、前川國男・板倉準三・吉坂隆正が設備や構造など実際の設計を担当した。
なので、ここには師匠と弟子の建築が向かい合って建っているということになる。

さて、前庭を竣工時の姿に戻すと言っても、戻せない部分もある。
例えば、写真の矢印部分。

ここはどうなっているのかと思い、のぞき込んで撮影をした。何か中庭のようになっているのだが、何だろう。

「自然と人のダイアローグ」の展覧会場に入って分かった。
展覧会場は地下にある企画展示館なのだが、地下二階まで降りると、そこがロビーになっている。ロビーの南側はガラス張りになっていて光が入っていた。ガラスの向こう側には、先ほど上から見下ろした階段や壁、タイル張りの床が見える。地下のロビーの採光のための中庭だったのだ。

「自然と人のダイアローグ」は、9月11日までです。