よみがえる正倉院宝物

松本市美術館で開催されている「よみがえる正倉院宝物」展に行った。副題に「再現模造にみる天平の技」とあるように、正倉院宝物を再現した模造品を展示する展覧会だ。
この展覧会は2020年7月から9月に奈良国立博物館で開催され、その後各地を巡回して松本での開催は8ヶ所目である。

看板やリーフレットにも使われているのは有名な螺鈿紫檀五弦琵琶(らでんしたんの ごげんびわ)。これは見たいなあと思っていた。
しかしその琵琶は前期(5月15日まで)のみの展示だと書いてあるのをサイトで見たので、後期は展示していないのだと私は思い込んだのだ。

自分が行く時にはもう見られないのだと勘違いして、次のようなツイートをした。

そうしたら、松本市美術館公式ツイッターがこれを見つけてくれて、次のように教えて下さった。
〝前期の展示は平成期に制作されたもので、後期は明治時代に制作した模造品を展示するのです〟と。

私はここで初めて、五弦琵琶の模造品が2つあることを知ったのだった。
ひとつは、明治31年(1898)に制作され、東京国立博物館が所蔵しているもの。もうひとつは平成23~30年(2011~18)に制作された、宮内庁正倉院事務所が所蔵しているもの。
私は、明治時代の作であろうと平成時代作であろうと、とにかく見られれば満足なので、喜んで松本市美術館に行ったのである。

会場の入り口にはこんな撮影コーナーがあった。

会場に入ると、最初にガイダンス映像を流すコーナーがあり、続いて6つの区画に分けて展示がされていた。

第1章は「楽器・伎楽」。

「再現模造」という語は、今回の展示で使われるようになったもので、今までは「復元模造」と言っていたそうだ。文化財では「復元修理」という言葉も使われるので、混同されないよう新たに「再現模造」とした。宝物と同じ材料で同じ構造なものを、同じ技法を用いて当初の姿を再現するという方針である。なので、展示されているのは、作られた当初の〝新品〟の姿となっている。

明治時代制作の五弦琵琶が展示されている横の壁面で、平成の五弦琵琶の制作の様子が数分間の動画にまとめられていた。これがとても面白い。
紫檀の本体に模様のための窪みを彫り、そこに夜光貝と玳瑁(たいまい)で作った装飾をはめ込んでいく。玳瑁は裏側から彩色をしている場面があって興味深かった。

第2章は「仏具・箱と几・儀式具」。

紫檀木画箱(したんもくがのはこ)は、箱の各辺の縁に細かい模様がほどこされている。これは、描いたものではなくて、象牙と木(黒柿・花櫚・黄楊木)と金属(錫)を薄い板状にして組み合わせて作ってあるのだ。ひとつの薄片は0.2~0.5mmくらいの薄さだという。

図は写真を見ながら作図したもので、もちろん正確ではないけれどこんな感じの模様だった。このような模様の帯が箱の周囲にぐるっと付けられているのだが、この帯の幅は1cmくらいかなあ。

第3章の「染織」には、白い絹の平織りが展示されていたのだが、糸の太さや織りの密度、織りムラも再現しようというのだから、気が遠くなる。

…という感じで第6章まであったのだが、とても興味深く見ることができた。
模造品とあるので〝本物か偽物か〟という見方をする人もいるかもしれないけど、どのようにしてものを作ったのか、という見方をすればいいのだと思う。

図録には、それぞれの作品をどう制作したのか説明されていて、結局買いましたよ。これから少しずつ目を通して行く。

会場で配布していた展示目録は、日本語版と英語版があって、ブログを英訳するのにとても助かる。自分では作品名をどう訳していいかなんて分からないから。

松本市美術館の「正倉院宝物」展は6月12日まで。