旧岐阜県庁舎
岐阜市役所のすぐ近くに,旧岐阜県庁舎が建っている。
今は使われておらず,人が入らないように周囲はフェンスで囲まれている。
この庁舎は,1924年(大正13)に建てられた2代目の県庁舎である。
岐阜県庁は1966年(昭和41)に新庁舎を建築して移転した。この建物はその後県の機関が入る総合庁舎として使われていたが,2013年(平成25)3月に閉庁した。
安全確保のため立入禁止となっており,現在は周囲をフェンスで囲まれている。今後どのように活用していくのか,見通しは立っていないようだ。
周囲を歩いても,ずっとフェンスが続いている。
西面のフェンスには,説明版が取り付けられていた。
「この建物は,大正13年10月に第2代の岐阜県庁舎として建設されたもので、連続する幾何学模様によるアールデコ風の意匠でまとめられた秀逸な建築物であるとともに、国内に現存する鉄筋コンクリート作りの県庁舎としては最も初期の建築です。
平面形状はE字型とし、南側中央部分に庁舎正面玄関を,北側には県会議事堂正面玄関をそれぞれ配していました。建築当時の資料からは,耐震耐火性能に優れた、広大で重厚な近代洋風建築として、その威容を誇っていたことが分かります。
庁舎正面玄関とそれに続く中央ホールには、大垣市赤坂産の大理石が多く使われるとともに,飛騨アルプスを図案化したステンドグラスがはめ込まれており、この建物の最も美しい空間となっています。また、格調高い『正庁』やそれぞれ意匠を凝らした『知事室』などの幹部執務室が各所にあり、現在でも建築当時の様子を見ることができます。(後略)」
パネルの作りからみて,長期的な説明板ではなく一時的なものとして設置されたのだろう。
「見ることができます」と書かれても,建物自体が閉鎖されているので中に入ることもできない。その対応として,県のサイトに掲載した内部の画像が見られるよう,QRコードが貼り付けられているが、数年でぼろぼろになるだろう。
建物の背面側はこのようになっている。
「E字型」と説明されていた庁舎は、正面部分を残し解体されたのだった。
解体した断面にはコンクリートで壁を作って塞いでいる。窓がないので,なんか異様な雰囲気になっている。
写真を撮っている時は気付かなかったのだが,1階部分の屋内に蛍光灯が点いているように見える。一般公開はしなくても中で誰かが活動しているのだろうか? もっとよく見ればよかった。
次の写真は,現役時代の総合庁舎の航空写真(国土地理院より)である。
建物全体はほぼ正方形だが,赤線で囲んだ南側の部分が1924年に竣工した建物で,黄色線で囲んだ北側は1958年に増築された部分だという。
竣工当時のイメージがつかみやすい画像として、1924年の雑誌「庭園」第6巻第7号に掲載されていた岐阜県庁舎の造園計画図を引用した。計画図なので植栽は実際とは違っているかもしれないが、建物の形はほぼこの通りだろう。
黄色の矢印の部分には県議会議事堂が併設されていた。議場側にも玄関が設けられていて,北側からも直接出入り出来るようになっていた。
北側から撮影した写真も残っているので掲載する(「岐阜県議会史第2巻」(1981)より)。
2階と3階部分が議場(吹き抜けで3階部分は傍聴席)で、1階に玄関が設けられていた。
正面側の写真もいくつかの書籍に掲載されているのを見つけた。竣工時に近い1925年の写真を載せる。
この庁舎は1923年6月に着工し,1924年10月15日に竣工した。建築顧問を矢橋賢吉・佐野利器、設計及監督を清水正喜が担当した。
当初は建物に塔屋が計画されていて,着工3ヶ月後に起こった関東大震災のため計画を見直したと言われており,塔屋が書かれた図面もあるのだが、設計変更の具体的な資料は見つかっていない。
設計担当の清水正喜は、県庁建設にあたり岐阜県に派遣された高等官で、1922年から岐阜県技師として設計に携わったようだ。完成の翌年まで岐阜に居住していたという。
さて、先ほど1958年に北側増築と書いたが,古い航空写真を見ていたら1947年には既に敷地に木造の建物が建てられている。他の画像で確かめたら、この建物は本館と接続されていた。
これがいつ建てられたものかは分からないが,手狭になった県庁を増築したものだろう。1958年に鉄筋コンクリートで増築する前には,この建物があったのだ。
再び正面側に回る。
正面玄関から見上げる。
扉はあまりうまく撮影できなかった。
少し離れて。
新聞記事を見ると,今年の9月に,民間団体が主催して活用を考えるイベントが行なわれたそうだ。耐震補強の費用などコストが掛かることなのであまり声高に主張するつもりはないが、活用の道が開けるといいなと思う。
【参考】
「旧岐阜県庁舎建築文化財調査報告書」(岐阜県・平成24年度委託調査事業)
【関連記事】
「帝国図書館の増築」(2024.06.28)清水正喜について
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