慶應義塾図書館旧館
東京建築祭2025で、5月24日に慶應義塾の三田演説館が公開されたので見学に行ったという記事を以前書いた。
あわせて図書館旧館も公開していたので、続けて見学した。

正面から見た旧図書館。
図書館は慶應義塾創立50周年(1907年)記念として建設されたもので、1909年(明治42)6月に着工し1912年(明治45)4月に竣工した。設計は曾禰中條建築事務所が担当した。
視線を横に移動させると、ほぼ同じ形だが微妙にデザインが異なる建物が見える(矢印で示した建物)。これは1927年(昭和2)に増築された第二書庫だ。

図書館の玄関には「創立五十年紀念 慶應義塾図書館」の文字が記されている。

玄関ホールに入ったが人が何人も並んでいて写真が撮りにくい。1階にある「カフェ八角塔」の入場待ちの列のようだ。仕方がないので天井の写真を撮影する。

玄関ホールの奥に階段があり、踊り場の壁にステンドグラスが設置されている。

オリジナルのステンドグラスは1915年(大正4)に設置された。原画を描いたのは和田英作(1874-1959)で、赤坂離宮や東京駅の壁画も制作した人だ。ステンドグラスの制作は工芸家小川三知(おがわさんち)(1867-1928)が担当した。
ところがこのステンドグラスは1945年5月の空襲で焼失してしまった。
現在設置されているものは小川三知の弟子大竹龍蔵(1895-1974)により復元されたものだ。

甲冑を身に付けた武将が白馬から下り、ペンマークを掲げた女神を迎えている場面で、「ペンは剣より強し」を表している。
ステンドグラスが設置されたのは1974年12月だが、その2ヶ月前、大竹は最後の色調整の指示を出した翌日に急逝し、完成除幕式を見ることはできなかった。
ステンドグラスの最下部の中央にはペンは剣より強しを表すラテン語「Calamus Gladio Fortior」が記されている。その左右にはローマ数字で1858(慶応義塾創立の年)と、1907(50周年)の数字が記されている。
階段手摺りの柱の装飾。

二階はもとは閲覧室だったが、現在は「慶應義塾史展示館」となっている。2021年に開館した施設だ。旧図書館は2017年から耐震改修工事と保存修理工事を行ない、2019年に完了したので、その後に設置された展示室である。
福沢諭吉の生涯と慶応義塾の歴史を展示しているのだが、他の人を写さないようにと思ったのでまた天井の写真になってしまった。

この時は東京建築祭に合わせて旧図書館の設計図などのパネルも展示されていた。
館内には、私を誘惑するようにこのような冊子が置かれているではないか。2023年に開催された企画展「曾禰中條建築事務所と慶応義塾」の図録である。もちろん買ってしまった。

外に出て、建物の周囲も歩いてみよう。
これは、玄関ドア上部の窓の装飾。

八角塔を見上げながら、旧図書館の東面へ歩いていく。

東側は正面よりも少し敷地が低いので、下部の石組み部分が高く見えてがっしりした印象を受ける。

マンホールの蓋にも、慶應のシンボルマークのペンマークが付けられていた。

再び正面。
第一書庫の上部の壁面に大時計が設置されている。文字盤は、陶磁器彫刻家・東京美術学校教授の沼田一雅(1873-1954)が制作したもの。
数字の変わりにラテン語で「TEMPUS FUGIT」(時は飛ぶ)と記されている。
1945年の空襲では時計の機械部分は焼失したが文字盤は残ったそうだ。1953年に電気時計を取り付けて復活した。

次の写真は、建物の西面である。手前は、1927年に増築された第二書庫、その奥に見えるのが1961年に増築された第三書庫(鉄筋コンクリート地下2階地上3階)だ。

最後に図書館が「旧館」となってからの歴史も少し触れておこう。
1976年(昭和57)に、図書館新館が完成したので、旧図書館は記念図書館・研究図書館として改修工事が行なわれた。
阪神淡路大震災(1995)の翌年に耐震診断が行われて強度不足の判定を受けたが、このときは校舎の耐震化を優先して図書館の工事は見送られた。
2000年(平成12)には図書館旧館の東側に、図書館のデザインを模した東館が建てられた。

門柱は南側に移設され、かつて正門だった東門の風景は大きく変わった。

2011年の東日本大震災の時に八角塔の煉瓦が剥落し、経年劣化の問題が改めて浮き彫りとなったので、2015年に耐震改修工事と保存修理工事を決めた。これが、記事中で少し触れた2017〜19年の工事である。
【関連記事】
「三田演説館」(2025-05-27)
【参考】
「時を超えて守り継がれる図書館旧館とステンドグラス」(慶應義塾ウェブサイト/2009-01-26)
「三田の東館」(編集部/三田評論ONLINE/2018-06-26)
「図書館の大時計」(石黒敦子/三田評論ONLINE/2024-09-26)
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