千曲川堤防決壊・1年後の写真展
各地に被害をもたらした、令和元年東日本台風。
長野県では、特に東信地方の降水量が多く、そこを流れる千曲川の水量が上がり、流域の各地に水害をもたらした。長野市では、市の北部や篠ノ井地区、松代地区が水に浸かった。
写真は国土交通省の資料から引用したが、長野市北部の様子である。
この写真の破堤点のすぐ近くに、玅笑寺(みょうしょうじ)というお寺がある。
そこで、10月12日~18日まで「堤防決壊による写真展」が開かれており、18日には講演もあるというので、行ってきた。
玅笑寺に着くと、壁が落ちたままの状態だった。
こちらは壁全体が完全に落ちてしまっている。
玅笑寺は、もともとは三水村(今の飯綱町)で保元元年(1156)に創立された臨済宗の寺だったが、その後曹洞宗に改宗した。天正8年(1580)に長沼城主島津淡路守忠直によって現在地に移転した寺だそうだ。
以前は「玅」の字が表記しにくかったので、ネット上では「妙」の字に置き換えられていることもあるようだ。
この地は過去にも水害に遭っている地域で、寺の境内には「千曲川大洪水水標」が立っている。
柱には「本堂内ノ柱ノ記ヲ写ス」と書いてあるので、もともとは本堂内の柱についた水害の水の位置をこちらの標柱に書き写したもののようだ。
一番新しい、白っぽい板が令和元年10月13日のもの。
一番上は読みにくいが「寛保2戌年 8月?日」と読める。下の二つは明治24年(1896)と弘化4年(1847)のもの。
このお寺の地域は、江戸時代には114回、明治時代に15回の水害に遭っているという。
ここで受付。
入口でいただいた資料から一部分を書き写す。
「(…前略…)写真展の開催の目的は、現在の人々には記憶に留め、防災意識への関心を喚起し、後世の人々には警鐘を鳴らして伝えるための写真展です。決壊当日から一年、復旧・復興に励む地域の活動の一年の記録を展示しました。写真はこの企画に賛同していただいたかたがたに提供していただいたものです。1堤防外 2堤防 3穂保地域の被害状況 4津野地域の被害状況 5赤沼地域の被害状況 6ボランティア 7災害ごみ集積場 8イベント活動 9地域を歩く(10月19日)の9グループに分けました。(…後略…)」
中の撮影については確認しなかったので写真掲載はしないが、500枚以上の写真が掲示されていた。
本堂も、窓にはビニールが張られているところがあり、他の部分では床が剥がされたままになっているところもあった。まだあちこちに水害の跡が残っている。
18日の講演では、昨年10月13日にお寺が水に浸かるときの様子、水害後の地域の様子、過去の水害の歴史などのお話があった。
どうも堤防が切れたところは昔、長沼城という城があったところらしい。たびたびの水害で城の跡はほぼ残っていないが、昔の地図を見ると城の堀の位置はある程度分かるようだ。堀のあった場所のせいか、現在でもぬかるんでいるところがあるらしい。
水害の跡が残っているのは、お寺だけではない。
周囲を歩くと、復旧途中の家や、人が住んでいないと思われる家も目につく。個人の住宅を写真に撮るのは気が引けたので、公共施設だけ写真に収めてきた。
お寺のすぐ近くにある長野市役所長沼支所。建物は閉鎖されたままで使われていない。隣に仮設庁舎が建てられて5月からそこで業務が行われている。
建物の前には「がんばろう!長沼」と「ボランティアさんありがとう」の文字が。
これは、支所の建物の側面の入口。よくあるガラスケースの掲示板だが、掲示された紙はぼろぼろになり、中には砂がたまっていた。
こちらは支所の隣にある長沼体育館。こちらも閉鎖されたままだ。
体育館の隣にあった長野市消防団長沼分団詰所。
消防団詰め所のすぐ東が、堤防になっている。
堤防に上がってみた。立入禁止の看板が立っているが、その奥が補修した堤防である。
長沼地区は、被災後1年間で人口が10.7%減少したという。お寺の周辺の津野地区に限ると17.7%の減少だ。(信濃毎日新聞より)
まる一年経ったけれど、まだまだ復興といえる状態ではない。
最後の写真は、少し位置が離れている。長野市赤沼に新幹線車両センターがあるが、そこから新幹線の線路沿いに少し北に行ったところ、県道386号線沿いにある標柱である。
柱には「善光寺平洪水水位標」と書かれ、過去6回の洪水の水位が示されている。
この水位標は、もともとは昭和16年に深瀬武助氏が私費で建設したものだという。老朽化が進んだため平成4年に赤沼区で建て直したものだそうだ。
昨年の10月13日の水害の表示は上から2番目に示されていた。
このような水位標は対岸の須坂市や小布施町、下流の中野市・飯山市にもあるそうだ。
【参考】
・国土の長期展望専門委員会(2019.11.27)『台風19号による被災状況と 今後の対応について』国土交通省
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