旧豊郷小学校(1)
少し前に、滋賀県豊郷町にある旧豊郷尋常高等小学校本館の記事を書いた。
写真は1887年(明治20)に建てられた校舎の本館である。校舎が使われていた当時は本館の左右に教室棟が建っていたが、現在残っているのはこの建物だけだ。

昭和初期には豊郷尋常高等小学校の児童数が600人余となり校舎・校地が足りなくなっていたので、豊郷村は校舎改築の必要に迫られていた。また、明治時代に通学区の変更があり校舎の位置が村の中央ではなくなっていたので、学校の場所を変更すべきだという声も挙がっていた。
そのような状況の中、1935年(昭和10)5月に学校の敷地と建物・設備を寄付しようという申し出があった。豊郷村の出身で、当時丸紅商店の専務を務めていた古川鉄治郎(1878-1940)である。
校地は当時の学校から400mほど南西側の土地を古川が買い入れ村に寄付をした。
設計・監督は近江八幡のヴォーリズ建築事務所、施工は大阪竹中工務店が担当した。

校舎は1936年3月に起工し、1937年5月に竣工した。
敷地は11,558坪(約38200平方メートル)で、鉄筋コンクリート造の本館(1054坪)、講堂(207坪)、酬徳記念図書館(187坪)、鉄骨造りの体育館(172坪)、木造の青年学校校舎(260坪)、プールなどが並んでいる。
校門左右の土地は実習農場(水田と畑)となっていた。

学校の敷地と建物・設備は、古川個人が豊郷村に寄付したのだが、図書館だけは「酬徳会代表としての古川」が、財団法人豊郷済美会に寄贈したという形だった。酬徳会というのは、丸紅の創業者伊藤忠兵衛(1842-1903)を偲んで設立された団体である。豊郷済美会は伊藤忠兵衛自身が設立した社会事業を行なうための財団だ。
敷地の北側には青年学校の校舎もある。青年学校というのは、小学校卒業後に進学をせず働く青少年に社会教育を行なうために1935年に設置された機関だ。修業年数は普通科が2年(12〜13歳)、本科が5年(14〜18歳)となっていた(本科4−5年は男子のみ)。
それまで実業補修学校(働いている青少年に実務教育をする)と青年訓練所(16歳以上の男子に修身・軍事教練等を行なう)が社会教育を行なっていたが、重なる部分があるので二つを統合整理して設置された学校である。戦争が始まると、職業実習という名目の勤労動員を行なうなど、戦時体制に組み込まれていった。
1947年の学校教育法施行に伴い、廃止された。
上の写真に写っている青年学校と体育館、プールはなくなったが、本館・図書館・講堂は現在も残っている。
なお、豊郷町は2004年に新校舎を建築して使い始めたので、この校舎は現在は学校としては使われていない。校舎改築問題は世間を騒がせたのだが、そのあたりのことは機会があれば書こうと思う。
校門の脇に案内図がある。
現在は、本館には町立図書館と子育て支援センターなど町の施設が入居している。
旧図書館は、観光案内所となっている。
館内見学は9:00〜17:00とある。ただし月曜日は休館だ。

本館の正面にやってきた。

玄関ホールで靴を脱ぐ。正面は資料展示室となっており、校舎模型や学校建設に関する資料が展示されていた。

1階の廊下。間接照明が美しい。でもこれはどう見ても建設当時のものじゃないよねえ。
(改修工事の際に設備配管を隠すためにこのような突起を作って間接照明を付けたらしい。)

1階には町立図書館や子育て支援センターなど町の施設が入っているので、廊下を静かに歩くことが求められる。
階段は中央と左右の三ヶ所。兎と亀の彫刻が載っている。

二階の廊下。廊下の設備配管を隠す突起についてはこの写真の方が分かりやすい。庇のように廊下に突き出している。
窓の開き方も面白い。廊下に窓枠が出ていると危ないから教室側に開くようになっている。でも教室側から見たらちょっと邪魔じゃないかなあと思う。
一番上の窓は子どもがぶつかる心配はないから外開き。

本館の中央部分は3階まである。案内図では会議室と唱歌室と書かれているが、中に入れるようだ。

こちらが会議室。
この校舎がアニメ「けいおん!」に登場する架空の高校と似ていることから、ファンがよく訪れるそうだ。黒板には訪問者のメッセージが記されている。

こちらは隣の歌唱室。正面にステージがある。

窓からは、現在の豊郷小学校の校舎が見える。

では次は講堂を見てみよう。
(つづく)
【関連記事】
「旧豊郷尋常高等小学校本館」(2025-12-05)
【参考】
「豊郷村史」(藤川助三編/滋賀県犬上郡豊郷村史編集委員会/1963)
「ヴォーリズの建築 : ミッション・ユートピアと都市の華」(山形政昭著/創元社/1989.11)
「滋賀県近代建築調査報告書」(滋賀県教育委員会文化部文化財保護課 編/滋賀県教育委員会/1990.3)






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